「知命立命」とは


実は自分を知り自力を尽くすほど難しいことはない。

自分がどういう素質能力を天から与えられておるか、それを称して「命」と言う。

それを知るのが命を知る、「知命」である。

知ってそれを完全に発揮してゆく、すなわち自分を尽くすのが「立命」である。


命を知らねば君子でないという「論語」の最後に書いてあることは、

いかにも厳しい正しい言葉だ。

命を立て得ずとも、せめて命を知らねばならない。


命とは先天的に賦与(ふよ)されておる性質能力であるから「天命」と謂(い)い、

またそれは後天的修養によっていかようにも変化せしめられるもの

という意味において「運命」ともいう。


天命は動きのとれないものではなく、修養次第、徳の修めかた如何(いかん)で、

どうなるか分からないものである。

決して浅薄(せんぱく)な宿命観などに支配されて、自分から限るべきものではない。


「安岡正篤一日一善」:致知出版社より